2015年3月11日(水)、SAPジャパン株式会社と株式会社セミナーインフォの主催により、保険会社に勤務する方を対象に東京・千代田区のベルサール半蔵門でEXECUTIVE FORUMが開かれた。
「保険業を取り巻く環境変化と次世代保険会社の成長戦略−経営課題を克服し、激変する保険市場に適応するために今何が求められているのか?−」と題されたこのフォーラム、SAPジャパン株式会社 Vice President 金融サービス統括本部長の関根淳氏によるオープニング挨拶の後、4つのプログラムを実施。
経済動向や規制はもちろん、テクノロジー、人口動態、消費者の嗜好等、あらゆる方面から迫り来る変化の波の中で、時代をリードする保険会社になるために何が求められているのか、そして、ITはいかにして保険会社の未来に資することができるのかという考察がなされた。

まず、「経営目標を達成するためのITマネジメント−経営視点とIT視点 経営とITのリレーション から考える」と題して、ソニー生命保険株式会社・代表取締役 執行役員専務 (現副社長)嶋岡正充氏による基調講演が行われた。
嶋岡氏は、ソニー生命の開業期から今日までのIT活用と業務改革の実績、自身の経験を踏まえて講演。最初に、経営とITは表裏一体であり、経営戦略とIT戦略は密接に連携することが必要ではあるものの、その認識と実態にはかい離があり、それが経営とITのリレーションにおける課題となっていることを指摘、少しでも距離を縮める方法を考えることが大切であると述べた。
次に、ソニー生命におけるビジネスモデルとITの歴史を振り返った後、経営とIT部門とで個別のミーティングを設定するなど、ダイレクトなコミュニケーションをとることの必要性や、経営とIT部門の役割分担を明確化することの重要性を指摘した。
最後に、IT活用における経営課題として、ITの価値継続をシステム化するために、人材育成と世代交代・経営のフレームワークを維持することが重要であることに加え、経営とのギャップを拡大しないために、説明能力を改善すること、今後のIT投資効果の測定を、売上増加・サービス水準の向上・顧客満足度などの準定量効果を主体に、定性的効果を評価するスキームを作ることで、正確な効果測定にとらわれずに適切な経営判断をすることが重要であると述べた。

基調講演に続いて、「激変する海外保険市場の最前線から−世界標準プラットフォームが保険業界を変える」と題して、Achmea 元CIO兼IT部門のディレクターのエリック・スロイス氏による特別講演が行われた。
スロイス氏は、まず生損保兼営のオランダ最大規模の保険グループ・Achmeaについて紹介。保険業界に2つの世界(先進国市場と新興市場)が存在する中で、SAPの標準ソリューションが変革の推進要素となり、管理部門がシェアードサービスセンターに変更されたことを説明。業界固有のデプロイメントとロードマップを示した。
次に、変化対応力の強化として、ビジネスインフォメーションプランニングのフレームワークを図式化して説明。エンタープライズモデルが変革を促進すると述べ、カスタマープロポジションと商品開発方法を紹介。お手本は自動車産業であると述べた。
続いて、保険は単なる商品から、プロポジションとサービス、オムニチャネルへと完全に連携されたものに変化していると指摘。オムニチャネルの課題についても説明した。今後はエンタープライズプラットフォームが普及していくと述べ、SAP Insuranceが世界中で使われていることを紹介。最後に変化はリスクであると同時にチャンスであり、保険会社は生存競争に打ち勝つために迅速に変化を遂げなければならず、そのためには、真のテクノロジー企業と連携して、業界リーダーとの繋がりを持つことが重要であると述べた。

続いて、「顧客が求める新しい保険会社像−顧客中心志向の保険経営とそれを支えるIT」と題して、SAPジャパン株式会社 インダストリークラウド事業統括本部 インダストリー・バリューエンジニアリング インダストリープリンシパル(保険)宮田格氏が報告した。
宮田氏は、国内保険会社は、お客様の望む商品をいかに速く作って提供するかという顧客志向対応と、海外進出に伴うレギュレーション対応やグローバル化対応が大きな課題となると説明。お客様との接点の少なさやレガシーなITシステム、デジタル化の遅れといった弱点はあるが、世界には新しいタイプのリスクが増えており、ニーズに合致すれば顧客が増える可能性があると指摘。一方で、他の業種からのアプローチという脅威もあると述べた。
続いて、保険会社のイノベーターは、人件費の削減、オペレーションの標準化によるコスト削減、標準パッケージ導入によりITシステムの運用コスト削減。それらを経営のプロによるマネジメントで実現していると述べ、海外各社の事例を紹介した。
最後に、SAPが提供する注目のソリューションを紹介。再保険のソリューションを提供する「統合リスク管理・アナライザー」、フロントオフィスからバックオフィスまでトータルにソリューションを実現する「フィナンシャルアセットマネジメント」、オムニチャネル化した顧客接点を逃さず、ビッグデータの活用を高速で行う「HANA」等について説明。世界各社の導入事例を紹介し、顧客志向に合ったシステムを作り、オムニチャネルを推進することでエンゲージメントを強化できることをアピールした。

続いて、「2020年の保険サービス−新たなブレークスルーを引き起こすテクノロジー活用」と題して、ボストン コンサルティング グループ パートナー&マネージング・ディレクター 堀川隆氏と、プリンシパル 高部陽平氏が報告した。
まずは、堀川氏が、テクノロジーを活用することで“普通に想像される”将来の保険業界のサービスのイメージ例をビデオで紹介。こうした先進的なサービスが、当たり前になると述べた。
次に、保険ビジネスにとってブレークスルーを加速化する「通信・端末」「顧客」「ソフトウェア」「情報」という4つのキーワードについて説明。ウェアラブル端末により健康管理サービスや、薬に埋め込まれたチップで情報収集を行う先進的なサービスの例を紹介。すでにネットが生活の一部となっているデジタルネイティブ世代にどのような訴求をすべきかについて説明し、保険会社として差別化を図るには、IT/テクノロジーの理解が不可欠であると述べた。
次に、高部氏が、保険会社経営におけるテクノロジー活用の方向性について説明。デジタル世界とリアル世界との融合が進み、モバイルにより新たな顧客アプローチチャネルを獲得できる一方、参入障壁が小さくなるため、他業種との競争に勝ち残るには継続的なイノベーションが不可欠であると強調した。
最後に、2020年の保険会社を支える5つのケイパビリティ群について解説。テクノロジーワールドへの4つの発展ステップを示し、ベースライニングから基礎の構築、テクノロジー・ケイパビリティとプラットフォームの構築、テクノロジーでの優位性獲得まで、保険会社経営におけるデジタリゼーションの方向性を示した。